JACMO 一般社団法人日本民事紛争等和解仲介機構

実践知識講義シリーズ 第1編 マンション補修紛争回避のための実践知識(第1章)

The JACMO Settlement Conference Court 裁判外の紛争解決を促進する法律(ADR法)に基づき民間の紛争解決手段を提供しています。

JACMO実践知識講義シリーズ

過去の和解事例判断集

第1巻建設紛争を事前に回避する実践知識

第1編 マンション補修紛争回避のための実践知識(第1章)

上席委員坂間均

第1編マンション補修紛争回避のための実践知識 

第1章 中古分譲マンション購入に際しての注意点
(平成24年2月25日寄稿)

土地付き一戸建て住宅購入と違い、マンションの場合は、専用部の購入とともに共用部についても現状を購入することにもなり、また個人のだけの意見でなく管理組合の決定が最優先となる為、共用部等全体のことに対しても気配りをしなくてはならない

Check1:
■1981年以降完成の新耐震設計で建てられているか?
 度重なる地震に見舞われるごとに、建築基準法の耐震基準が見直されてきましたが、阪神大震災・東日本大震災においても、1981年度の「新耐震基準」に添って確認申請を下付された建物はほとんど被害がないという結果となっております
 
 ・上記以前に建てられた建物の場合、耐震補強等の計画はなされているのか

Check2:
■管理体制はどういう体制であるか?
 管理会社に委託管理として業務契約を行っているのか?
   ・全部委託管理となっているか
・一部委託管理となっているか(どの部位が委託されているのか)
国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」に準じて作成されているか
管理会社の規模・実績および所属の業界団体はどこか
管理会社に一方的に有利なこと管理組合にとって不利な項目が入ってないか
業界団体による1か月分の管理費について保証がなされているか
  管理委託費が業務内容ごとに細分化されて記載があるか
・自主管理体制としているのか?
     どのような管理体制と判別できる書面等はあるか
     役員の選別、会合の開催時期・場所、議題の提案等
     維持管理の会社の選定はどのよう決定されているのか
     特定の業者に偏っていることはないのか
国土交通省の「マンション標準管理規約」に準じた管理規約が作成されているか

上記の体制により、管理組合の役員の負担や管理費の金額に差が生じてくることになる。
 
Check3:
■管理費・修繕積立金について、㎡あたりの金額が周囲のマンションと比較して、極端に高低ではないか?
 高い場合も少ない場合も、なにがしかの理由があり確認する必要があります
購入時の修繕積立基金はいくらか
 購入後修繕積立金の値上げや新たな積立基金の予定はないか
 前所有者には管理費・修繕積立金等の滞納はないか
 なお、マンション全体においても上記の滞納の有無はないか

Check4:
■修繕およびメンテナンス点検等計画について計画的に行われているか
・メンテナンス費用のかかるEV・機械式駐車場等についてどのような計画となっているのか
 ・給排水管の維持管理については、どのような計画となっているのか
 ・大規模修繕となる外壁・屋根防水等の計画はどのようになっているのか
 ・マンションの設計図書等がしっかり保管管理されているか
 ・設備配管等において、専用部・共用部の区分けがはっきりしているか
 ・過去の修繕履歴・今後の大規模修繕計画の確認、マンション全体の修繕金の額は適正か
 ・階下の住戸の天井裏での共用横引き配管があるマンションで、適正に配管の点検交換等の計画があって、維持管理が行われるような管理ができているか

Check5:
■区分所有議決等が複雑になるような管理組合の運営になっていないか
 ・等価交換方式で、元地主が大きな割合を占めているようになって、議決権決定に大きな影響を与えてないか
 ・店舗等があって管理組合が複雑ではないか
 ・賃貸人が多く入居していないか
 ・駐車場を分譲方式となっていて、管理組合の運営に支障はないか
 ・駐車場代金を修繕費に組み込んでいるのか、一般管理費に組み込んでいるのか
 
Check6:
■管理規約・使用細則等はしっかりとしているか
 ・駐車場、駐輪場等の使用について利用の申し込み等
 ・ペット飼育が可能となっている場合に、ペットの種類、数、飼育方法等や届け出方法等
 ・リフォームする場合の詳細や、届け出方法等
 ・給湯器等が共用部(外廊下・バルコニー)に面して設置してあって買い替えが必要な場合、色形態機種等に制約があるか
 ・住居以外への使用の制限があるか
 ・店舗等が階下にあって、ゴキブリ・ねずみ等の駆除についてしっかり対応がなされているか

Check7:
■その他
 ・上記内容は、契約時の重要事項説明書に記載されなければならない内容も含まれていますが、意味不明なケ所は、契約前に質問等をし解決することで、入居後の困惑は避けることとする
 ・リフォーム済の物件を購入する場合は、特に隠蔽されたケ所(外部からの水侵入、配管、断熱等)を注意・確認し、工事の瑕疵担保の責任を確約したアフターサービス規準を取得する
 ・リフォーム済の物件は、リフォーム時の設計図書(設備配管計画等も)を受領する
 ・専用部のみを購入したわけで無い為、マンション全体共用に対しても細心の注意を払う
 ・築年数の古いマンションの場合、断熱性能が不足しておりスケルトンで断熱施工を薦める


*実際に起こった問題
①床下配管から下階に水漏れの責任問題
②自主管理の場合に特定の業者による工事となり、修繕方法等が適正な判断とならない
③PSでの上下階の区画がしっかりしてなく階下の飲食店舗からの害虫等が上階にあがってきて、横引き配管・じゃばら管等を侵食した

一例を紹介します(Kさんの場合)
■全住戸数40数戸の中古マンションを購入した
 ・1964年築の旧耐震設計であるが、管理組合として耐震補強計画を行う意思統一があるのか不明である。
 ・地区年数が古く、入居者が高齢者の方が多く、賃貸人の入居も多く管理組合としてのまとまりが少ない。
・1階に複数のテナント入居(飲食店舗ほか)があって、共用部への悪影響についての関心が少なく、害虫が住戸階への侵入が起こっている。
 ・スラブ下に横引き共用配管で経年変化の状態が不明で、共用部と専用部の区分がしづらく問題が起こった時しか対応ができない。
 *専用部の床下配管は、スラブ上かスラブ下で共有部なのか専用部なのかが決まります。
  この場合は、スラブ下の配管なので、仮に水漏れがあっても共有部分の故障となる。
 (理由:共用配管からの水漏れ等起きた場合の修理は、階下の住人が不在時にはできない為)
 ・リフォーム済物件で、界壁・界床・PSの確認ができない。
 ・第三者の管理会社がなく自主管理物件となっている為、入居者同士のトラブルが起きた場合解決がしにくく、維持管理の工事施工者が一社専任となりやすい。
  よって、解決方法は一方的な考え方で推移することになりやすい
 ・駐車場がなく修繕積立費の積立額が少ない為、共用部の大規模修繕費の算出時に管理組合としてのローンも入居者のまとまりがなく管理組合として一体感がなく結局工事を行わない状況になることも考えられる。
 ・建物全体の物件設計図が添付されてないような売買契約となっており、共用部等で事故が露見して初めて問題となることになる。
 ・今後物件を再売買あるいは賃貸物件とする場合でも以上のような問題点は明らかな瑕疵となることになる。
 
「中古マンション購入」には慎重にならざるを得ない物件があります。
特に、一戸建て物件と違い、管理組合がマンション全体の運営を決定し、管理費修繕費等をも決定しますので個人の判断だけでは許されません。

一例に示した物件は、いくつもの欠落条件が重なった場合となっていますが、入居後1~2年して事故が発生し問題点が露見いたしました。
当初より、前頁までの注意事項を一つずつ確認し契約を行っていくべきであったかもしれません


B,中古住宅購入に際しての注意点
■建物編
Check1:1981年以降完成の新耐震設計で建てられているか
    ・築年数が古い場合、耐震的にも省エネ的にも修正を加えねばならないことになり、今後長期に住居として住まうのであれば、全面的改築を奨めます
    ・耐震および断熱改修については、行政によっては一部補助金が出る場合があります
    
Check2:維持管理または故障の際にちゃんと来てくれる会社はあるか
    ・定期的に前住居者が依頼していた建設工務店等があれば、建物の履歴がわかることもあり良い
    ・確認申請図、竣工図書等の図面があると、今後の改築補修計画等に便利です

Check3:建物の見えがかり以外の部位(天井裏、基礎部等)に瑕疵がないか
    ・詳細については、建物チェックをベテランの設計士またはインスペクターに依頼するを勧めます

■敷地編
Check1:,土地の境界はしっかり明確化されているか
    ・境界に隣敷地と共有の工作物がある場合、修繕再設置するときに隣人との打ち合わせが必要になってしまう
    ・隣戸からの空中、土中での越境物はないか
    ・敷地内側での塀を今後撤去した場合、隣敷地の土等が崩落するようなことはないか

Check2:土地は液状化の恐れがないか
    ・地歴的に可能性があるか確認の必要がある

Check3:地域地区において、洪水等の履歴はないか
   
Check4:隣地を含め、周囲に空地等があり、今後街並みや、日影が変化する恐れはないか
    
Check5:建て直し計画が可能であるか
    ・市街化区域であるか
    ・前面道路は公道4M以上あるか
    ・私道があり、負担があるのか
    ・敷地内に赤道、青道等が存在していないか

Check6:敷地内および隣地の擁壁等がある場合は、耐震的にしっかりしているものか

Check7: インフラ整備(電気・ガス・給排水道等)の内容はどのようなものか
    ・隣地を通過するようなインフラ設備はないか

以下次回へ続く

JACMO01001.pdf

[本稿の無断転載・複写を禁ずる。転載及び複写を希望する場合、和解会議事務局までご連絡願います。]

 
ADR法活用について ご不明な点等、お気軽にご相談ください。お問い合わせはこちら。